「フジクラ」と聞いて、すぐに何を作っている会社かイメージできる人は少ないかもしれません。
もともとは電線・ケーブルの老舗メーカーです。ところが近年は、生成AIブームやデータセンター投資の拡大を背景に、光ファイバ・光ケーブル・光配線ソリューションの会社として株式市場で大きく注目されています。
2026年3月期のフジクラは、売上高1兆1,823億円、営業利益1,887億円、親会社株主に帰属する当期純利益1,571億円と大幅な増収増益でした。2027年3月期も売上高1兆2,430億円、営業利益2,110億円を見込んでいます。
この記事では、フジクラが何の会社なのか、なぜ株価が急上昇したのか、会社の歴史、今後の展望まで、投資初心者にもわかりやすく整理します。
この記事のポイント
フジクラは、1885年創業の老舗メーカーで、電線・ケーブル製造を起点に「つなぐ」技術を磨いてきた会社です。現在の主力は、情報通信、エレクトロニクス、自動車、エネルギーの4領域で、特に株式市場で注目されているのは情報通信事業です。
株価上昇の背景には、生成AIの普及によるデータセンター投資の拡大があります。AIを動かすには大量のデータ通信が必要で、その裏側では光ファイバや光配線ソリューションの需要が伸びています。フジクラ自身も、生成AIの普及に伴いデータセンター市場の投資が拡大し、光ファイバケーブルや光コネクタなどの需要が急拡大していると説明しています。
一方で、直近では株価の値動きも大きくなっています。Yahoo!ファイナンスでは、2026年5月22日時点の株価は4,850円、年初来高値は7,933円、年初来安値は2,742円と表示されています。短期間で大きく上昇した分、決算後には調整も起きています。
フジクラは何の会社?
フジクラは、電線・ケーブルを原点とする日本の非鉄金属メーカーです。
会社概要を見ると、創業は1885年2月、設立は1910年3月18日。本社は東京都江東区木場にあり、2026年3月31日時点の連結従業員数は50,586名、2025年度の連結売上高は1兆1,824億円です。
ただし、現在のフジクラを単に「電線会社」と見ると、実態を見誤ります。
現在のフジクラの事業は大きく分けて、以下の4つです。
| 事業 | 主な製品・用途 |
|---|---|
| 情報通信 | 光ファイバ、光ケーブル、光配線ソリューション、光ファイバ融着接続機 |
| エレクトロニクス | FPC、超小型コネクタ、HDDアクチュエータ、サーマルソリューション |
| 自動車 | ワイヤハーネス、ヒューズボックス、急速充電ケーブルコネクタ |
| エネルギー | 産業用電線、高圧・特高電力ケーブル、架空送電線 |
2024年度のセグメント別売上高を見ると、情報通信事業が4,513億円で構成比46%、エレクトロニクス事業が1,859億円で19%、自動車事業が1,771億円で18%、エネルギー事業が1,452億円で15%でした。つまり、現在のフジクラは情報通信が最大セグメントの会社です。
フジクラが注目される理由は「AIデータセンター」
フジクラがここまで注目されている最大の理由は、AIデータセンター向け需要です。
生成AIを使うとき、ユーザーの画面の裏側では大量のデータがデータセンター内外を行き来しています。AIの計算には高性能GPUや半導体が必要ですが、それらを高速につなぐ通信インフラも欠かせません。
そこで重要になるのが、光ファイバや光ケーブル、光コネクタ、光配線ソリューションです。
フジクラは、2025中期経営計画における核心的事業領域として「情報インフラ」「情報ストレージ」「情報端末」を掲げています。特に情報ストレージ領域では、超高密度光配線技術でデータセンター構築に貢献すると説明しています。
同社資料では、生成AIの普及に伴ってデータセンター市場の投資が拡大し、光ファイバケーブルや光コネクタなどの光配線ソリューション需要が急峻に拡大しているとされています。また、「情報ストレージ」の売上高は2023年度から約4倍に拡大したと説明されています。
ここが、フジクラを見るうえで非常に重要です。
NVIDIAのようなAI半導体企業が「AIの頭脳」だとすれば、フジクラの光配線ソリューションは、データセンター内で情報を高速に流す「神経」や「血管」のような存在です。AIブームの裏側で、データを高速・大量・安定的に流すインフラ需要が拡大している。その流れに乗っているのがフジクラです。
なぜフジクラの株価は急上昇したのか?
フジクラの株価上昇は、単なるテーマ株人気だけでは説明できません。主な理由は3つあります。
1. 業績が急拡大している
2026年3月期の連結業績は、売上高1兆1,823億円、営業利益1,887億円、経常利益1,994億円、親会社株主に帰属する当期純利益1,571億円でした。前年の2025年3月期と比べると、売上高は20.7%増、営業利益は39.2%増、純利益は72.5%増です。
特に注目すべきは営業利益率です。2025年3月期の13.8%から、2026年3月期には16.0%まで上昇しています。売上が伸びているだけでなく、利益率も改善している点が評価されやすいポイントです。
2. 生成AI・データセンター関連として評価された
市場では、AI関連銘柄というと半導体メーカーやサーバー関連企業に目が行きがちです。しかしAIデータセンターの拡大には、通信インフラも必要です。
フジクラは、SWR®/WTC®を中心とした光配線ソリューションを展開しています。同社資料では、2025年度ポーター賞の受賞理由として、SWR®/WTC®を中心とした光配線ソリューション製品のグローバル展開や、独自の製品・製造技術に基づく高付加価値戦略が評価されたと説明されています。
さらに、2025年日経優秀製品・サービス賞では「13824心SWR®/WTC®」が受賞しており、従来比2倍の心数を実現した点が評価されています。
これは少しかみ砕くと、「限られたスペースに、より多くの光ファイバを高密度に収める技術」と考えるとわかりやすいです。データセンターでは通信量が爆発的に増えるため、省スペースで大容量通信を支える技術の価値が高まっています。
3. 事業構造改革が効いている
フジクラは、以前から順風満帆だったわけではありません。
同社の統合報告書2025では、2019年度に385億円の純損失を計上した業績悪化に向き合い、2020年からの事業再生フェーズで「100日プラン」による構造改革を断行したと説明されています。その結果、2023年度から始まった中期経営計画を1年前倒しで達成し、2024年度は売上高と純利益が過去最高を記録したとされています。
また、個人投資家向け説明会資料でも、事業再生フェーズでは選択と集中、資金繰り・財務体質強化、固定費削減、投資規律の強化を実施したと説明されています。
つまりフジクラの株価上昇は、AIデータセンター需要という外部環境だけでなく、過去の構造改革によって利益が出やすい体質になったことも背景にあります。
直近の株価はどうなっている?
Yahoo!ファイナンスによると、2026年5月22日時点のフジクラ株価は4,850円、時価総額は約8兆6,096億円、PERは会社予想ベースで51.48倍、PBRは実績ベースで14.33倍です。
また、年初来高値は2026年5月14日の7,933円、年初来安値は2026年1月21日の2,742円とされています。
ただし、ここで注意したいのは、2026年4月1日付で1株を6株にする株式分割が行われている点です。配当や1株利益、過去株価を比較する際には、分割前後の数字が混在しないように見る必要があります。2026年3月期決算短信でも、2026年4月1日付の1株を6株にする株式分割について注記されています。
また、直近では決算発表後に大きな調整も起きています。Yahoo!ファイナンスの表示では、株価は2026年5月14日終値6,355円から5月22日終値4,850円へ下落後に反発したとされています。
つまり、フジクラは中長期では大きく評価された銘柄である一方、短期的には市場の期待値がかなり高く、決算内容が良くても株価が大きく動きやすい局面にあります。
フジクラの歴史:始まりは「根掛け」から電線へ
フジクラの歴史は、1885年に藤倉善八が絹・綿巻線の製造に乗り出したところから始まります。公式サイトによると、藤倉善八はアーク灯を見て電気の時代を予見し、女性用ヘアバンド「根掛け」の技術を電線製造に活用したとされています。
このエピソードは、今のフジクラを理解するうえでも象徴的です。
単に電線を作ってきた会社ではなく、もともと持っていた編組技術や加工技術を、時代の変化に合わせて電線へ展開した会社です。現在も、電線・ケーブルの技術を起点に、光ファイバ、光配線、FPC、自動車用ワイヤハーネス、エネルギー関連ケーブルへと事業領域を広げています。
フジクラ自身も、自社のDNAを「進取の精神」と「技術のフジクラ」と表現しています。
フジクラの強みは何か?
フジクラの強みは、大きく3つあります。
1. 光配線ソリューションの技術力
最も注目されているのは、情報通信事業における光配線ソリューションです。
光ファイバ、光ケーブル、光部品、光ファイバ融着接続機などを手がけており、同社資料では光ファイバ融着接続機について「世界トップシェア」と記載されています。
データセンターでは、膨大なデータを高速でやり取りする必要があります。そのため、通信量の増加に対応できる高密度・高性能な光配線技術を持つ企業は、AIインフラ拡大の恩恵を受けやすい立場にあります。
2. グローバル展開
フジクラは国内企業でありながら、売上の多くを海外で稼いでいます。
2025年3月末時点の資料では、フジクラグループは31カ国・121社で展開し、2024年度の海外売上高比率は77%とされています。
AIデータセンター投資は日本だけでなく、北米を中心にグローバルで拡大しています。海外売上比率が高いことは、世界的なインフラ投資を取り込むうえで重要なポイントです。
3. 構造改革後の利益体質
フジクラは、2019年度の業績悪化を経て、2020年以降に構造改革を進めました。
事業の選択と集中、固定費削減、投資規律の強化などを行った結果、成長分野に経営資源を集中しやすい体制になっています。
その結果として、2026年3月期の営業利益率は16.0%まで上昇しています。
今後の展望:フジクラはまだ成長できるのか?
フジクラの今後を見るうえで、注目したいポイントは3つです。
1. データセンター投資は続くのか
最大の成長ドライバーは、引き続きAIデータセンター向け需要です。
フジクラは、2027年3月期について売上高1兆2,430億円、営業利益2,110億円を予想しています。会社側は、光ケーブルの急峻な増産により一部原材料調達が追いつかなくなる懸念を保守的に見込みつつも、データセンター向けの強い需要が継続すると説明しています。
ポイントは、需要があるかどうかだけでなく、供給をどれだけ増やせるかです。需要が強すぎる場合、原材料や生産能力が制約になることもあります。
2. 増産投資が成果につながるか
フジクラは成長分野への投資を進めています。
同社資料では、佐倉のSWR®新工場建設、佐倉の光ファイバ・SWR®新工場建設、モロッコでの光ケーブル製造、メキシコ・ポーランドでの光コンポーネント増産投資などが記載されています。
これらの投資が予定通り立ち上がれば、データセンター需要の取り込み余地は広がります。一方で、増産投資には立ち上げリスクやコスト増のリスクもあります。
3. 株価の期待値に業績が追いつくか
フジクラはすでに市場から高く評価されています。
2026年5月22日時点で、PERは会社予想ベースで51.48倍、PBRは14.33倍と表示されています。
これは、将来の成長をかなり織り込んだ水準ともいえます。今後も株価が評価され続けるには、単に「AI関連で注目されている」だけでなく、売上・利益・受注・増産計画の進捗が市場期待に応え続ける必要があります。
フジクラを見るときの注意点
フジクラは魅力的な成長ストーリーを持つ会社ですが、注意点もあります。
まず、株価の変動が大きいことです。AI関連やデータセンター関連として注目されている分、好材料にも悪材料にも大きく反応しやすくなっています。
次に、期待値が高いことです。業績が良くても、市場の期待がそれ以上に高い場合、決算発表後に株価が下がることがあります。実際、2026年5月の決算発表後には大きな値動きがありました。
さらに、原材料調達や増産能力も重要です。会社側は2027年3月期の業績予想において、光ケーブルの急峻な増産により一部原材料調達が追いつかなくなる懸念を保守的に見込んでいると説明しています。
まとめ:フジクラは「電線メーカー」から「AIインフラを支える光配線企業」へ
フジクラは、1885年創業の老舗電線メーカーです。
しかし現在の姿は、単なる電線会社ではありません。情報通信、エレクトロニクス、自動車、エネルギーを手がける技術メーカーであり、特に情報通信事業では光ファイバ・光ケーブル・光配線ソリューションを通じて、AIデータセンター時代のインフラを支えています。
株価が大きく上昇した背景には、生成AIの普及によるデータセンター投資の拡大、光配線ソリューション需要の急増、そして過去の構造改革による利益体質の改善があります。
一方で、すでに市場の期待値は高く、株価の値動きも大きくなっています。フジクラを見るうえでは、「AI関連だから上がる」という単純な見方ではなく、データセンター需要、増産投資、利益率、株価バリュエーションをセットで確認することが重要です。
フジクラは、電気の時代を見抜いて電線事業に進出した創業期から、AI時代のデータセンターを支える現在まで、「つなぐ技術」で時代の変化を取り込んできた会社です。今後もAIインフラ投資が続くなら、フジクラは日本企業の中でも注目度の高い存在であり続けるでしょう。

